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 世界で一番最古の酒は何だろう？これについてはたくさんの説があるようですが、最も有名な酒が蜂蜜酒（Mead：ミード）です。これは日本ではあまりなじみがありませんが、その名が示すとおり蜂蜜を発酵させた醸造酒で、世界各地で愛飲されているお酒です。ワインやビールがポピュラーになる前のヨーロッパではもっとも人々に親しまれた酒であり、古代ローマでも飲まれた事がわかっています。
蜂蜜酒（ミード）が何故世界最古の酒と言われているのか、それは第一に、蜂蜜採取の歴史が古いという事実があります。蜂蜜は古代より貴重な栄養源として珍重されていました。例えば、１万４０００年以上前の氷河期以前に描かれたスペインやフランスの洞窟絵に蜂蜜採取の絵があったり、紀元前６０００年頃とされるスペインのアラーニャ洞窟の絵にも蜂蜜採取の絵が描かれています。蜂蜜は自然界から得られるものの中で最も糖度が高く、糖のほかに多くのビタミン、ミネラルを含み、また決して腐敗しない高い殺菌作用を持っています。そのため蜂蜜は早くから人々の食生活に取り入れられ、直接食べるほか、果実を漬け込んだりして、保存食造りにも活用されていたようです。
そのように蜂蜜は古代から用いられた食材でしたので、神話に登場する「甘い神の酒（甘露）」は、多くが蜂蜜酒ではないかと推測されます。古代インドで書かれたヒンドゥー教の経典「リグ・ヴェーダ」において記されている、神の酒ソーマや神々の蜜水アムリタ、また、ギリシャ神話において神々の飲み物とされるネクタル（ネクター）は蜂蜜酒だという説もあります。
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 蜂蜜酒が最も古い酒とされる第二の理由として、その造り方がシンプルだという事が挙げられます。ミードを造るには、蜂蜜を２〜３倍の水で割り、軽く暖めた後、常温の冷暗所で保存すれば出来上がります。蜂蜜自体にはもともと野生酵母が含まれていますが、強い殺菌作用もあるので、そのままでは発酵しませんが、お湯に溶かすことにより浸透圧が低下して殺菌作用だけが消え、発酵がはじまります。このように水を加えるだけで酒母（しゅぼ）となるため、蜂蜜酒はハイドロメル（ハイドロ＝水、メル＝蜂蜜）といわれます。近年の醸造所では、湯に溶かし、ワイン用の酵母を加える方法が好まれています。夏は２〜３日、冬は１週間程度で酒になります。酵母を加えるとすぐに発酵が始まり、アルコールの香りが漂いはじめます。アルコール度数が１０度以下で、そのまま飲めばスパークリングワインのように甘い発砲醸造酒として楽しめますが、さらに１〜３年寝かせて熟成させ、度数が１０〜１３度程度になると、ドライタイプの場合（甘いスイートタイプもある）甘さを感じさせない、すっきりした白ワインのような芳香を放ちます。 日本では酒税法の関係で、ミードなどの自家醸造は禁止されています。しかし近年、国内でもミードを造る酒蔵が出てきているようです。 |
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 先程でも述べましたが、蜂蜜は水を加えるだけで簡単に発酵し、酒となる事から蜂蜜酒は「酒偶然起源説」の好例として取り上げられます。それは野外の蜂蜜が木のウロなどに溜まり、雨を受けて薄まり、野生の酵母で発酵する可能性があるからです。似たような話で、中国では「猿酒」といって、猿が果実を溜め込んで酒を造るという伝説があり、果実酒の起源ともされています。実際、現在でもアフリカなどで、地面に落ちた果実が自然に発酵しアルコール分を含んだ状態になる場合があり、これを食べた象が暴れだしたという記録があります。猿酒の場合は液体ではなく、腐敗しかかった果実がアルコール分を発生し、粥状になった食品という捉えかたが適切です。またそれに関連して興味深いエピソードがあります。近年、マレーシア西部の熱帯雨林に生息する、原始的猿の一種であるハネオッパイが、ヤシ類の植物の花から出た蜜が自然酵母で発酵したもの（ビール程度のアルコール度数）を日常的に「飲酒」していることが分かりました。この猿（ツパイ類）はリスのような哺乳類ですが、ヒトを含む霊長類の５５００万年以上前の祖先と生態が近いと考えられています。 |
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 蜂蜜酒はビールやワインが登場する前のヨーロッパでは、とてもポピュラーなな飲み物でした。古代のスカンディナヴィアに住んでいたゲルマン人達は、この蜂蜜に強精効果がある事に気づき、新婚夫婦は結婚後１ヶ月の間、蜂蜜酒を造って飲みながら子作りに励んだ事から、新婚直後の時期を「蜜月」（ハネムーン）と呼ぶようになったと言われています。医学的に蜂蜜には生殖機能を強化する亜鉛が大量に含まれており、ビタミン類や糖分も一緒に摂取できる蜂蜜及び蜂蜜酒は、当時最高の媚薬だったと考えられます。
東欧では今でも、新婚夫婦の掌に１さじの蜂蜜を垂らし、夫婦揃って最初の食事をとる前に互いの掌を舐めあう風習があります。 |
| ★[参考文献]…酒の伝説／新紀元社 |
ＶＯＬ４５：お酒の豆知識・・・蜂蜜酒（ミード）(Ｈ２４.８.１７）
